ドラッグストアで働く薬剤師が転職を考えたとき、たぶん一度は思うことがあります。
「大手のほうが、教育がしっかりしているんだろうな」
私もそう思っていました。新卒で入ったのは中小のドラッグストアで、そこから大手のドラッグストアに転職しました。大手なら研修も整っているだろう、と期待していたんです。
結果を先に書きます。教育の中身は、中小のほうが圧倒的に良かったです。
ただ、それでも私は今も大手にいます。戻りたいと思ったことはあるのに、辞めていません。理由がちゃんとあります。
この記事では、両方で働いた薬剤師として、大手と中小の何がどう違ったのかを正直に書きます。どちらが偉いという話ではなく、何を優先する人がどちらを選ぶべきかの話です。
私は中小ドラッグストアから大手ドラッグストアへ転職しました
まず前提を書いておきます。
新卒で中小のドラッグストアに入り、1年目の12月に転職エージェントへ登録して、2年目に入る前に大手のドラッグストアへ移りました。きっかけは遠方への引っ越しです。転職の時期については薬剤師の転職は何年目からがいいのかという記事に詳しく書きました。
1社目に不満がなかったわけではありません。家から遠かったこと、それと上のポストが詰まっていて昇進が見込めなかったこと。私は管理薬剤師の経験を積みたかったので、これは正直きつかったです。あと、毎日棚卸しがあるタイプの店舗だったので、そのぶん終わる時間が延びるのもしんどかった。
逆に、いわゆる「ドラッグストアのきつさ」として語られる部分は、私はあまり感じませんでした。品出しもレジも、重い物の搬入も、とくに苦ではなかったです。半年間はOTCの店長として客注業務もやりましたし、BA業務もやりました。あれは楽しかった。
そんな状態で、大手に移りました。
店舗に配属された初日から「あれ?」と思った
違和感を持ったのは、入社研修のときではありません。店舗に配属された直後です。
まず監査中の動きを見て、無駄が多いなと思いました。それから発注業務。これも工程が多くて、なんでこんな手順を踏むんだろうという部分がいくつもありました。
そして一番戸惑ったのが、決まりが見えにくいことです。
ルールがない、という意味ではありません。マニュアルはあります。むしろ大手のほうが分厚い。でも「なぜそうするのか」「どこまでが決まりで、どこからが店舗の裁量なのか」が掴みにくかった。中小のときは、決まりが少ないぶん輪郭がはっきりしていたんです。
大手のマニュアルは、正直に言うと無駄な部分がけっこうあると感じました。全国の店舗に一律で適用するものなので仕方ないのかもしれませんが、現場の動きに落ちていない印象でした。
中小時代の研修が、実はかなり贅沢だった
大手に移ってから気づいたことがあります。1社目の研修は、けっこう恵まれていたんだなということです。
当時は当たり前だと思っていました。比較対象がなかったので。
シフトに「研修業務」が組まれていた
これが大きかったと思います。研修は自主的にやるものではなく、業務時間内に「研修業務」としてシフトが組まれていました。時間外に残って勉強会、みたいな形ではなかったんです。
同期は1代でだいたい10人ほど。その全員に領域が割り当てられて、1年に1〜2回、2〜3時間の研修枠を持ちます。
2〜3年目と5〜6年目の先輩がペアを組んで教える
教える側の組み方が、今思うとよく出来ていました。2〜3年目の先輩と、5〜6年目の先輩がペアを組んで、1年目に教えるという仕組みです。
年次が近い先輩は、つまずくポイントを覚えています。少し上の先輩は、全体像や例外を知っています。この組み合わせだと、「わかる説明」と「正確な説明」が両方来るんです。
教材が「自店舗にあるものだけ」だった
これが一番効いていた部分だと思います。
OTCの成分表を、自分の店舗に置いてある商品の分だけExcelにまとめて、違いを整理していました。世の中にある全部の商品ではなく、自店舗にあるものだけ。だから明日そのまま使えます。
推奨品の文言も自分たちで作っていました。お客さまにどう伝えるかを、実際の商品に合わせて言葉にする作業です。
ほかにも、最新の論文をまとめてくれる先輩がいたり、ガイドラインの更新を追ってくれる人がいたり。オムツや害虫駆除みたいに薬ではない領域についても、他社の方が来てくれてオフラインで研修がありました。
オフラインだったから覚えているんだと思います。今でも内容を思い出せます。
大手の研修は「動画を見て自分で進める」だった
大手に移って驚いたのは、研修がかなりの部分オンラインだったことです。動画を見て、自分で進めていく形式でした。
あとは、意見交換をするミーティング。これも正直、現場で使えるものにはなりませんでした。何かを持ち帰れたという記憶があまりないんです。
動画そのものが悪いとは思いません。全国に店舗があって、人数も多いので、揃えるにはそれが一番効率的なのは分かります。ただ、「教育がしっかりしている」と私が期待していたものとは違いました。
忙しさについても言っておくと、大手のほうがきついです。中小のときのほうが働きやすかった。
ここまで読むと「じゃあなんで大手にいるの」と思われますよね。ここからが本題です。
それでも私が今も大手にいる理由
前の会社に戻りたいと思ったことはあります。働きやすさだけを比べたら、中小のほうが上でした。
それでも大手にいるのは、教育や働きやすさとは別の部分に価値を感じているからです。
福利厚生と育休制度がしっかりしている
これは規模の差がそのまま出ます。制度の数も、実際に使える度合いも、大手のほうが明確に上でした。とくに育休制度は、長く働くことを考えるなら無視できない部分だと思います。
働きやすさは「今の毎日」の話ですが、制度は「これから起きること」への備えです。この2つは別のものとして考えたほうがいいと、移ってから気づきました。
ボーナスが上がった
年収は正直に書きます。転職して100万円ほど上がりましたが、これは1年目から2年目への昇給として自然な範囲だと思っています。転職の効果だと言い切るのはたぶん違います。
ただ、ボーナスの水準が上がったので、3年目以降も中小にいたままより50万円くらいは良い気がしています。年収の話はこちらの記事にもう少し書いています。
→ 薬剤師が中小ドラッグストアから大手へ転職してわかったこと
店舗が多いと、引っ越しで辞めなくてよくなる
これは私が一番実感している部分です。
私が1社目を辞めた理由は、遠方への引っ越しでした。店舗がその地域になければ、辞めるしかありません。
大手は店舗が多いので、引っ越すことになっても異動で済む可能性があります。転職せずに続けられる。これは一度「引っ越しのために辞めた」経験がある人間にとって、かなり大きな安心材料です。
結婚、パートナーの転勤、家族の事情。この先そういうことが起きたとき、選択肢が残っているかどうかは大きいです。
人が多いと、人間関係のリスクが下がる
これも規模の話です。
少人数の職場は、合う人がいれば最高ですが、合わない人が1人いるだけでかなりしんどくなります。逃げ場がないんです。
大手は人数が多いので、単純に「当たり」を引く確率も、外れたときに動ける確率も上がります。異動という手段があるのは大きい。
ポストが空きやすい
最初に書いた通り、私が1社目で不満だったのは上のポストが詰まっていたことでした。管理薬剤師をやりたかったけれど、順番が回ってきそうになかった。
大手に移って、私は管理薬剤師を経験できました。店舗が多いということは、管理薬剤師のポストもそれだけ多いということです。
キャリアを積みたい人にとって、これは軽い話ではないと思います。
大手の本当の強みは、教育ではなくリスク分散だと思う
並べてみて気づいたんですが、私が大手に感じている良さは、全部同じところから来ています。
- 店舗が多い → 引っ越しても辞めなくていい
- 人が多い → 合わない人がいても異動できる
- ポストが多い → 昇進の順番が回ってくる
- 制度がある → ライフイベントに耐えられる
全部「規模」です。 そして規模が生んでいるのは、選択肢とリスク分散です。
一方で、教育の質は規模では決まりませんでした。中小の研修が良かったのは、会社が大きいからではなく、現場の人が自分たちの店舗に合わせて作っていたからです。自店舗にあるOTCだけの成分表なんて、全国一律のマニュアルからは絶対に出てきません。
だから私は、こう考えるようになりました。
大手は「教育を期待して」入るところではなく、「選択肢を買うために」入るところ。
この期待の掛け違いをしないだけで、入社後のギャップはかなり減るはずです。私は掛け違えて、配属初日にがっかりしました。
入社前に、教育体制の実態を知る方法はあるのか
正直に言います。入社前に知る方法は、ほぼないと思います。
求人票には「研修制度あり」「教育体制充実」と書いてあります。でもその中身が、シフトに組まれた研修業務なのか、自分で見る動画なのかは、そこからは分かりません。私も分かりませんでした。
ひとつだけ、自分でできることを挙げるなら。
客としてその店舗に買い物に行って、接客を受けてみることです。
OTCについて相談してみて、返ってくる答えの知識レベルを見る。教育が実際に機能しているかは、そこにいちばん出ます。研修制度の名前ではなく、現場の人の受け答えのほうが正直です。
あとは、外から実態を知っている人に聞くしかありません。
私が転職活動をしていたとき、担当してくれたエージェントの方は、ある求人について「この前この求人で4年目の病院薬剤師の方が落ちているので、無理そうです」と教えてくれました。社長は中途採用でも構わないと言っているけれど、人事は新卒を採りたい会社だ、とも。
こんな話、求人票のどこにも書いていません。その会社を外から何件も見ている人しか持っていない情報です。
教育体制についても同じで、「あの会社に入った人が何と言っていたか」を知っているのは、紹介している側です。だったら聞いてしまったほうが早い。私が配属初日にがっかりしたのは、聞かなかったからでもあります。
登録して話を聞くだけなら、転職が決まるわけではありません。今いる会社と比べるための材料をもらう、くらいの気持ちで十分だと思います。
よくある質問
大手と中小、結局どちらがおすすめですか?
優先するものによります。教育の中身と働きやすさなら、私の経験では中小でした。制度・収入・異動できる安心感・昇進の機会なら大手です。両方は手に入りませんでした。
中小ドラッグストアは教育が弱いのではないですか?
会社によると思います。ただ「規模が小さいから教育が弱い」は、私の経験では成り立ちませんでした。1社目はシフトに研修業務が組まれていて、先輩がペアで教える仕組みがあり、教材も自分たちで作っていました。むしろ現場に近いぶん実務的でした。
大手は忙しいですか?
私の場合は、大手のほうがきつかったです。中小のときのほうが働きやすいと感じていました。ただ、店舗によって差が大きい部分でもあると思います。
管理薬剤師になりたい場合は、どちらがいいですか?
店舗数が多いほうが、ポストの数も多くなります。私は1社目で上が詰まっていて昇進が見込めず、大手に移ってから管理薬剤師を経験できました。早くポストに就きたいなら規模は味方になります。
年収はどれくらい変わりましたか?
転職して100万円ほど上がりましたが、1年目から2年目への昇給として自然な範囲だと思います。ボーナスの水準が上がったので、3年目以降も中小のままより50万円程度は良い気がしています。
入社前に職場の雰囲気を知る方法はありますか?
求人票からは分かりませんでした。できることとしては、客として店舗に行って接客を受けてみることと、その会社を外から見ている人に聞くことだと思います。
まとめ
- 「大手のほうが教育がしっかりしている」と思って転職したが、実際は違った
- 大手の研修は動画を見て自分で進める形式で、ミーティングも現場で使えるものにはならなかった
- 中小時代はシフトに研修業務が組まれ、2〜3年目と5〜6年目の先輩がペアで1年目に教える仕組みがあった
- 教材も自店舗にあるOTCだけの成分表など、翌日から使えるものを自分たちで作っていた
- 忙しさも、働きやすさも、中小のほうが良かった
- それでも大手にいるのは、福利厚生・ボーナス・店舗数・人数・ポストの数に価値を感じているから
- これらは全部「規模」から来ている。大手が生むのは教育ではなく、選択肢とリスク分散
- 教育体制を入社前に知る方法はほぼない。客として接客を受けるか、外から見ている人に聞くしかない
大手に行けば安心、という思い込みだけで会社を選ぶと、私のように配属初日にがっかりします。逆に「引っ越しても続けられる」「合わない人がいても異動できる」「ポストが回ってくる」を買いに行くつもりなら、大手はかなり良い選択だと思います。
どちらが上ではなく、自分が今いちばん怖いものは何かで選ぶのがいいんじゃないでしょうか。
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